鹿の舟のいま

滝坂の道

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涼やかな風が奈良の町を抜け、散策に心地良い気候となりました。

白毫寺や元興寺では、萩の可憐な花が境内を彩り始め、
般若寺では、可愛いらしく咲く秋桜が境内を包み込みます。

他にも、田んぼの畔に咲く彼岸花や風にたなびく芒など、
彩り豊かな秋の景色が広がり、秋草の景色を愉しみながら
奈良町を散策する方の姿も多く見られるようになりました。

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同じように、奈良町から少し足を延ばしてハイキングを楽しむ方も増えています。

奈良市街地から気軽に歩けるハイキングコースの一つである柳生街道の「滝坂の道」。

かつて春日大社の神官が多く暮らした「高畑」地域と、
春日山と高円山の谷あいを抜けた先にある「円成寺」を繋ぐこの道は、
奈良市街地側から谷あいに一歩踏み入れると、緑が広がり、水流の音が心地良く、
味わいある石畳を歩くなかで、数々の石仏も見られます。

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こちらの三尊磨崖仏は、朝日を浴びた姿の神々しさから「朝日観音」と呼ばれ、
すぐ近くにある弥勒磨崖仏は、夕日に照らされることから「夕日観音」と呼ばれています。

時間帯によって景色が変わるのも、滝坂の道の散策の奥ゆかしさでもあります。

また、石畳は、柳生家が大名であった頃に奈良奉公所によって敷かれ、
今では周りの風景と相まって趣深い味わいを生んでいます。

当時は「柳生の剣」を求める武士が多く行き交い、
現在の静かな街道の様子とはまた少し異なっていたのかもしれません。

街道の途中にある茶屋「峠の茶屋」は、江戸時代から続いており、
武士が酒代の代わりにと置いていった鉄砲や槍が残されています。

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当時も今も、この場所でほっと一服するのが、
道中の楽しみの一つであったのかもしれません。

古道を柳生方面に抜けると、景色は一転。
田畑が広がり、丘陵地には茶畑も見られます。

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ちょうど今の時期、早いところでは稲刈りも終わり、
お米を乾燥させるため、稲架(はざ)掛けをしている様子も見られます。

そのまま、滝坂の道を柳生方面に向かった終着点の「忍辱山(にんにくせん)円成寺」。

平安時代中頃に創建され、柳生街道随一の名刹とされる円成寺は、
足を踏み入れてすぐ目の前に広がる浄土式舟遊式の庭園が印象的で、
私たちを平安朝の世界へと誘ってくれます。

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室町時代に再建された本堂や楼門、
鎌倉時代前半、春日大社本殿から移築された春日堂と白山堂。

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また、お堂には複数の仏像が安置されていますが、
その中でも、運慶の最初期の作とされる大日如来坐像は、
穏やかな面相や柔らかい物腰からも運慶の才能が伝わり、ため息がこぼれます。

穏やかな時間が流れる円成寺。
これから秋が深まり移りゆく紅葉の景色もまた、多くの参拝者の心を打つことでしょう。

心地良い秋空の下、奈良町から少し足を延ばして柳生の地に触れてみてはいかがでしょうか。

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