新薬師寺のステンドグラス
まだまだ暑さもひとしおの今日、
特に日中は、外に一歩足を踏み出すだけでも汗が滴ります。
そんなときには、少し気温の落ち着く朝、すがすがしい時間帯に
寺院巡りで、ゆっくりと過ごしてみてはいかがでしょうか。
[鹿の舟]から東に15分ほど歩くと、「高畑」という地域に繋がります。
かつては、春日大社の神官たちの社家町でもあり、
大正から昭和にかけては、多くの文人が集い、様々な文化を発信してきた高畑。
現在、閑静な住宅街としても人気の高畑にある、有名な寺院が「新薬師寺」です。
光明皇后が、聖武天皇の眼病の回復への願いを込めて747年に創建され、
ご本尊の薬師如来坐像を中心に、日光菩薩と月光菩薩、
そして、十二神将が薬師如来坐像を囲むように本堂の須弥壇に安置されています。
南門をくぐると、白壁が印象的な本堂が目の前に広がります。
こちらの本堂の東側に、ステンドグラスがはめ込まれた一画があるのをご存じでしょうか。
縦に約2メートルもある大きなステンドグラス。
約16年前、当時の住職がステンドグラスの美しさに感銘を受け、
「心豊かな世紀」への願いを込めて設置されたそうです。
本堂は国宝に指定されているため、
釘などは使用せず、扉の外に木の枠組みを作成して設置されています。
天気の良い午前中には、ガラス越しに朝日が差し込み、
本堂の、ほの暗い雰囲気とステンドグラスの生み出す瑠璃光によって、
当時の住職が思い描いた浄瑠璃の世界が広がります。
幻想的な空間をより楽しめる、朝の拝観がお勧めです。
普段、扉は閉められているため、ステンドグラス自体を知らない方もおられますが、
希望すると扉を開放してくれます。
創建当時は敷地も広く、7体の薬師如来像をお祀りしていた金堂、
東塔や西塔などをはじめとした立派な伽藍でしたが、
雷による火災や台風の影響により、大きく衰退することとなりました。
その後、唯一残った奈良時代の建物「食堂(じきどう)」が、
鎌倉時代、華厳宗の高僧、明恵(みょうえ)上人によって、本堂として再興されました。
このときに、観音堂(元地蔵堂)や鐘楼、東門、南門も新設され、
鎌倉時代の建築様式を今に伝えています。
その後も、江戸幕府による庇護や庶民の支えによって守られ、現在に至ります。
創建当時の華やかな境内と、様々な災害を経て現在に至った様を想い、
眺めるステンドグラスの輝きからは、得も言われぬ感情が溢れてきます。
また、先日14日までは夜間拝観も行われており、朝とはがらりと雰囲気が変わり、
ろうそくの灯りで包まれた、落ち着いた空間が広がっていました。
時間帯によって表情を変える寺院の雰囲気に、奥ゆかしさを感じます。
奈良の寺院散策、お勧めです。